有給休暇で休業損害を請求できる?計算方法や請求方法、欠勤との損得も解説
交通事故で怪我の通院のために有給休暇を使用することもあるかと思います。交通事故で怪我や治療のために仕事を休んだ場合には休業損害を請求できますが、有給休暇を使用した場合にも休業損害を請求できます。もっとも、代休を取得した場合には休業損害は請求できません。
また、有給休暇の休業損害の請求方法も決まっており、適切に休業損害を請求できなければ、休業損害を満額受け取ることはできません。
この記事では、有給休暇で休業損害を請求できる理由、休業損害認定した裁判例、有給休暇の休業損害の計算方法や請求方法、休業損害を満額受け取るポイント、有給休暇と労災の休業補償の関係等について解説しています。
この記事でわかること
- 有給休暇で休業損害を請求できる理由
- 有給休暇で休業損害を認定した裁判例
- 有給休暇の休業損害の計算方法
- 有給休暇の休業損害の請求方法
- 有給休暇の休業損害を満額受け取るための2つのポイント
- 有給休暇と欠勤、どちらの方が得か
- 有給休暇と労災の休業補償の関係
目次
有給休暇を使用した場合でも休業損害を請求できる!
休業損害とは、交通事故の怪我や通院のために仕事を休み、それによって本来もらえるはずの給料がもらえないことに対する賠償のことです。したがって、有給休暇を使用した場合には給料がもらえるので、休業損害が請求できないとも思えます。
もっとも、有給休暇も給料をもらいつつ仕事を休めるという点で財産的価値が認められ、本来自由に使用できる有給休暇を使用させられたことが損害になるとして、有給休暇を使用した分も休業損害として請求ができます。
なお、終日有給休暇を取得した日数だけでなく、半日有給休暇を取得した場合にもその分休業損害を請求できます。
有給休暇の休業損害を請求できる職種
有給休暇の休業損害を請求できる職種としては
- 会社員
- パート・アルバイト
- 公務員
などです。
公務員については、病気休暇制度があるので、それを利用した場合には勤務先から給料が満額支払われるために休業損害を請求できませんが、それを利用せずに有給休暇を取得した場合には、休業損害を請求できます。
有給休暇で休業損害を認定した裁判例
ここでは、有給休暇を使用した場合に休業損害を認定した裁判例を紹介します。
会社員の事例
会社員(男性、43歳)の有給休暇(12日)につき、事故前3か月間の給与合計105万円を稼働日数で除した金額を日額として、18万円余を認めた事例(大阪地判平成30.6.22)。
特別休暇の事例
会社員(男性、29歳)の10日間の積立休暇(連続3日以上の私傷病に対して取得できる休暇)の使用につき、有給休暇と同様に財産的価値のあるものと認め、21日間の年次有給休暇、12回の半日年次有給休暇と併せて37日分、事故前3か月の収入を90日で除した金額を日額として40万円余を認めた事例(福岡地小倉支判平成27.12.16)。
代休の場合には休業損害を請求できない
代休とは、仕事を休業した分、本来休みの日に代わりに出勤することをいいます。この場合には、出勤日数に変更がないため給料が減少する損害もありませんし、本来休みの日に通院したのと同様に考え、休業損害を請求することができません。
したがって、有給休暇の場合には休業損害を請求できますが、代休の場合には休業損害を請求できません。
なお、休業したが、会社が特別に給料を支払ってくれた場合にも、被害者に損害はないため休業損害を請求することができません。
有給休暇の休業損害の計算方法
有給休暇を使用した場合に休業損害が請求できるとして、休業損害はどのように計算するのでしょうか。
休業損害の計算基準には3つあり、金額の低い方から、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準となります。
ここでは、自賠責基準と弁護士基準の休業損害の計算方法を解説します。
特徴 | |
自賠責基準 | 強制加入の自賠責保険の基準 3つの基準では金額が一番低い |
任意保険基準 | 各任意保険会社が社内で定めている基準で非公開 自賠責基準より高く、弁護士基準よりは低いことが多い |
弁護士基準 | 裁判所が採用している基準 3つの基準で一番金額が高くなる |
自賠責基準
自賠責基準は、強制加入の保険である自賠責保険が採用している基準であり、3つの基準の中では一番金額が低くなっています。自賠責保険に休業損害を請求した場合や、任意保険会社が賠償額の提案をしてくる際に、休業損害が自賠責基準で計算されることがあります。
自賠責基準の有給休暇の休業損害は、以下の式によって計算します
計算式) 日額×休業日数
日額については、6100円とされていますが(事故が令和2年4月1日以降の場合。それ以前の事故は日額5700円)、立証資料等により日額が6100円を超えることが明らかな場合には、1万9000円を上限として、その実額が日額となります。
休業日数は、会社を欠勤した日数+有給休暇を取得した日数のことです。
なお、自賠責基準の休業損害の計算方法等は以下の記事でも解説しています。
弁護士基準
弁護士基準は、裁判した場合に認められる基準でもあり、弁護士が示談交渉する際には弁護士基準を用いて交渉を行います。
弁護士基準も以下の計算式によって算定します。
計算式) 日額×休業日数
日額については、事故前3か月の給料を90日で割ることによって算定します。
この事故前3か月の給料には、残業代や手当等の付加給も含み、税引き前の金額を使用します。
休業日数は、欠勤日数と有給休暇を取得した日数のことです。
なお、事故前3か月の給料であったり、欠勤日数や有給休暇を取得した日数は、会社に休業損害証明書に記載をしてもらって主張していくことになります。
休業損害証明書のひな形は以下のようなものです。
有給休暇を使用した場合の休業損害の請求方法
有給休暇を使用した場合に休業損害を請求する方法は以下のとおりです。
- 加害者の保険会社に有給休暇の休業損害を請求したい旨伝える
- 勤務先に休業損害証明書を作成してもらう
- 保険会社に休業損害証明書を提出する
加害者の保険会社に有給休暇の休業損害を請求したい旨伝える
まずは、加害者の任意保険会社の担当者に、有給休暇を取得したこと、休業損害を請求したいことを伝えましょう。
保険会社が休業損害を支払う気であれば、休業損害証明書のひな形を郵送してもらえます。
なお、この時点で「有給休暇について休業損害は払えない」などと言われた場合には、有給休暇の休業損害は認められていることを説明し、それでも応じなければ弁護士に相談するようにしましょう。
勤務先に休業損害証明書を作成してもらう
保険会社から休業損害証明書のひな形をもらえたら、勤務先に休業損害証明書に記載してもらいましょう。
記載してもらう内容としては、欠勤した日や有給休暇を取得した日、事故前3か月の給料などです。
この休業損害証明書が休業損害を立証する唯一の資料ですので、もれなくしっかりと記載してもらうようにしましょう。
また、このときに、事故前年度の源泉徴収票も一緒に発行してもらいましょう
保険会社に休業損害証明書を提出する
勤務先にしっかりと休業損害証明書を記載してもらったら、保険会社に休業損害証明書と事故前年度の源泉徴収票を郵送しましょう。
保険会社の方に資料が届けば保険会社の方で審査を行い、1~2週間で休業損害が支払われます。
なお、休業損害を毎月支払ってもらいたい場合には、休業損害証明書を毎月提出し、休業損害についても慰謝料と一緒に後払いでいい場合には、治療が終了してからまとめて休業損害証明書を提出するようにしましょう。
有給休暇の休業損害を満額受け取るための2つのポイント
休業損害の請求方法がわかったかと思いますが、適切に休業損害を請求しなければ、休業損害を満額受け取ることはできません。
この章では休業損害を満額受け取るための2つのポイントについて解説しています。
勤務先にしっかりと休業損害証明書を記載してもらう
会社員等が休業損害を請求するためには、勤務先に休業損害証明書を作成してもらう必要があります。
もっとも、勤務先も休業損害証明書の作成に精通しているわけではありませんので、休業損害証明書の作成に不備があることもあります。休業損害証明書に不備があればその分もらえる休業損害の金額にも影響してしまいますので、勤務先には休業損害証明書をしっかりと記載してもらいましょう。
特に
- 有給休暇取得日に◎をするのを忘れていた
- 半休について記載するのを忘れていた
- 残業代等の付加給の記載を忘れていた
- 税引き前の給料の記載を忘れていた
という休業損害証明書をよく見ますので、その点はしっかりと注意してみるようにしましょう。
弁護士基準で払ってもらうよう保険会社と交渉する
勤務先にしっかりと休業損害証明書を記載してもらったら保険会社に提出して休業損害を支払ってもらいます。
もっとも、保険会社は賠償金の支払いを低く抑えたいと考えているので、自賠責基準や任意保険基準など、低い基準で休業損害を支払ってくることもあります。
この場合には、休業損害の弁護士基準の計算を行い、保険会社に弁護士基準との差額を請求するようにしましょう。
個人での交渉が難しい場合には、弁護士に依頼したり、金額が大きければ訴訟提起なども検討するようにしましょう。
有給休暇と欠勤ではどちらの方が得をするか?
有給休暇を使用しても、欠勤しても休業損害を請求できるのであれば、どちらの方が得をするのでしょうか。
結論からいうと、有給休暇を使用した場合には、有給休暇を取得して給料が支払われつつ休業損害ももらえるので、金銭面でいうと有給休暇を使用した方が得をすることになります。
特に、有給休暇を自由に取得することが難しい会社の場合には、この機会に有給休暇を取得した方がいいでしょう(年次有給休暇は付与されてから2年で消滅してしまうので)。
もっとも、有給休暇を自由に取得できる会社の場合には、有給休暇を使用するとその分年次有給休暇が減るので、気を付けないといけません。
有給休暇を使用するメリット
- 給料と休業損害の二重取りができる
- 普段使用できない有給休暇を使用できる
有給休暇を使用するデメリット
- 年次有給休暇の日数が減る
労災の休業補償は有給休暇ではもらえない
交通事故が業務中や通勤退勤途中に発生した場合には、労災の対象にもなります。
このようなケースで会社を欠勤した場合には、労災に対して休業補償の請求もできます。
もっとも、労災の休業補償の要件は、休業によって給料が支払われなかったことですので、有給休暇の場合には休業補償を請求することはできません。
よって、交通事故について労災も使用する場合には、労災から支給されなかった有給休暇の休業損害を保険会社に請求するのを忘れないようにしましょう。
休業が多かったために将来の有給休暇が付与されないことに対する賠償
有給休暇とは、全労働日の8割以上勤務した場合に付与されるものです。
そして、事故によって欠勤が続き、それによって有給休暇取得の出勤数を下回った場合には、翌年の有給休暇が付与されないことになります。
これについても、入院等により休業を余儀なくされ、その休業期間のために有給休暇が付与されないことになったといえる場合には、その分を休業損害として請求する余地があります。
会社員(男性、39歳)につき、有給休暇には財産的価値を認めることができるとし、事故による欠勤のために付与されなかった有給休暇分34万円余を損害として認めた。
さいたま地判令和1.9.5
交通事故の相談は法律事務所Lapinへ!
交通事故の被害に遭ってしまった場合には、適切な対応を行わなければ、適切な慰謝料を受け取れない、示談金を低く見積もられてしまうなどの不利益を被ってしまいます。そして、保険会社との交渉では、慰謝料の計算や、その他の損害額の計算、過失割合の交渉など、専門的な知識が求められることになります。特に休業損害については、保険会社が採用する基準と弁護士基準との間で金額に開きがあります。
したがって、交通事故の示談交渉は弁護士に依頼した方がいいでしょう。
交通事故では弁護士に示談交渉を依頼するメリットが大きい
弁護士に示談交渉を依頼すると、保険会社との交渉を弁護士にすべて任せることができるため、交渉に対する心理的ストレスから解放されます。
また、慰謝料について保険会社が採用している基準と弁護士が使用する基準では金額が大きく異なり、弁護士に交渉を依頼した方が最終的に受け取れる示談金も多くなります。
よって、交通事故の示談交渉は弁護士に依頼した方がいいでしょう。
法律事務所Lapinが選ばれる理由!
弁護士といっても、交通事故に精通している弁護士や、交通事故案件をあまり担当したことがない弁護士もいます。そして、交通事故の示談交渉では、交通事故の専門的知識や、保険会社との交渉経験等、弁護士においても知識の差によって結果が変わってしまいます。
法律事務所Lapinでは、交通事故の被害者側の依頼を500件以上担当した弁護士が交通事故の示談交渉を対応しますので、交通事故の専門的知識や経験は、他の弁護士に引けを取りません。
また、大手で大量に事件処理を行っている事務所では、事務員が担当として就き、弁護士となかなか話ができないケースもありますが、法律事務所Lapinでは弁護士が依頼者との連絡を行いますので、そのような心配はございません。
法律事務所Lapinでは弁護士費用特約も利用可能!
自身の保険や、ご家族の保険に弁護士費用特約が付帯している場合には、それを利用することによって、基本的に自己負担なく、弁護士に交通事故の示談交渉を依頼することができます(弁護士費用の300万円まで保険会社が負担するため)。また、弁護士費用特約はノンフリート等級なので、翌年の保険料にも影響はありません。
まとめ
いかがだったでしょうか。
有給休暇を取得した場合でも休業損害証明書を勤務先に記載してもらって休業損害を請求することができます。
そして、この場合には、生活に影響がないことから、慰謝料等と一緒に示談金として支払ってもらうことが多いです。
なお、有給休暇の休業損害の請求方法や、休業損害が増額できるかなどについて疑問があれば、弁護士に相談するようにしましょう。
投稿者プロフィール
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法律事務所Lapin代表弁護士。東京弁護士会所属。
都内大手の法律事務所2か所で勤務し、法律事務所Lapin(ラパン)を開設。依頼者が相談しやすい弁護士であるよう心掛けており、もっぱら被害者の救済のために尽力している。
主な取り扱い分野は、交通事故、相続、離婚、養育費、不貞慰謝料、B型肝炎訴訟、労働問題、削除請求、刑事事件、著作権侵害事件。
特に交通事故については、累計500件以上の解決実績がある。
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