交通事故休業損害の自賠責基準とは?計算方法や請求時の3つの注意点
交通事故の怪我のためや、通院のために仕事を休んだ場合や主婦の家事に影響が生じた場合には、加害者に休業損害を請求することができます。そして、休業損害の請求先としては、加害者が加入している任意保険会社や、加害者が任意保険に加入していない場合には、加害者が加入している自賠責保険に対しても休業損害を請求できます。
もっとも、自賠責保険に休業損害を請求する場合には、休業損害の計算は自賠責基準で行われますし、自賠責保険に請求する際の特有の注意点もあります。
また、交通事故が労災の対象になる場合には、労災から支払われる休業補償との調整にも注意が必要です。
この記事では、自賠責基準の休業損害の計算方法、労災の休業補償との関係、自賠責保険に休業損害を請求する際の3つの注意点、休業損害を満額受け取る2つの方法等について解説しています。
この記事でわかること
- 自賠責保険とは
- 【職業別】自賠責基準の休業損害の金額と計算方法
- 自賠責保険への休業損害の請求方法(被害者請求)
- 労災の休業補償と自賠責保険の休業損害の関係
- 自賠責保険に休業損害を請求する際の3つの注意点
- 休業損害を満額受け取る2つの方法
目次
自賠責保険とは
自賠責保険とは、車やバイク等を所有するものが加入することを義務付けられている強制加入の保険のことです。
これに対し、任意保険とは、自賠責保険とは別に任意に加入する保険のことをいいます。
自賠責保険は、計算基準が法律で決まっており(自賠責基準)、被害者を最低限救済するための強制加入保険であることから上限額も低額となっており、人身事故の損害賠償のうち自賠責基準を超える部分については、加害者に直接支払い義務が残ってしまいます。なので、これを賄うために、自賠責基準に加えて任意保険にも加入しているのが一般的です。
交通事故が発生した場合に、被害者は、加害者に全額請求することもできますし、自賠責保険に支払い請求を行うこともできます(被害者請求)。
特に、加害者が任意保険に加入していない場合には資力がないことも多いため、被害者が自賠責保険に支払い請求を行うことが多いです。
自賠責保険(共済)は、交通事故による被害者を救済するため、加害者が負うべき経済的な負担を補てんすることにより、基本的な対人賠償を確保することを目的としており、原動機付自転車(原付)を含むすべての自動車に加入が義務付け られています。
※電動キックボードは原動機付自転車等に該当するため、自賠責保険(共済)への加入が必要です。なお、無保険車による事故、ひき逃げ事故の被害者に対しては、政府保障事業によって、救済が図られています。
自賠責保険(共済)とは? (mlit.go.jp)
【職業別】自賠責基準の休業損害の金額と計算方法
被害者が加害者の自賠責保険に賠償金の請求を行った場合には、自賠責基準で計算された金額しか賠償金を受け取ることができません。
また、加害者が任意保険に加入しており、加害者の任意保険会社から賠償金の提案が来る際にも、自賠責基準で休業損害が計算されているケースもあります。
自賠責基準の休業損害の計算式は以下のとおりです。
計算式) 日額×休業日数
なお、日額については、6100円とされていますが(事故が令和2年4月1日以降の場合。それ以前の事故は日額5700円)、立証資料等により日額が6100円を超えることが明らかな場合には、1万9000円を上限として、その実額が日額となります。
そして、休業損害が支払われる日数は、職種によって異なります。
自動車損害賠償保障法施行令第三条の二
自動車損害賠償保障法施行令第三条の二
法第十六条の二の政令で定める損害は、被害者が療養のため労働することができないことによる損害とし、同条の政令で定める額は、一日につき一万九千円とする。
会社員の場合
会社員の場合には、会社を休業した日、有給休暇を使用した日が休業日数となります。
なお、有給休暇については、自由な日に給料をもらいつつ仕事を休むことができるという点で財産的価値があるとされているので、事故のために有給休暇を使用した場合には休業損害を請求できる、とされています。
もっとも、会社を休んだ代わりに休みの日に出勤しているような「代休」の場合には、休業損害を請求できません。
休業日数の証明は、会社に「休業損害証明書」を作成してもらうことによって主張立証しましょう。
自営業者の場合
自営業者の場合には、基本的には休業日数を証明してくれる人がいないので、通院日には仕事を休んだものとみなして、通院日数が休業日数となります。
なお、仕事をしていたという証明も必要となるため、事故前年度の確定申告書等を就労証明資料として提出する必要があります。
また、個人事業主ではあるけれども、一社専従のような場合には、実質的に会社員と同様として、休業損害証明書を作成してもらって休業日数を証明していく方法もあります。
計算式) 日額×通院日数
主婦(主夫)の場合
主婦の場合でも、家事労働が経済的価値を有していると評価されていることから、休業損害を請求することができます。なお、休業日数については、自営業者と同様休業を証明する人がいないので、通院日数を休業日数としてカウントすることが多いです。
休業損害を請求するためには、被害者が家事労働に従事していたということを主張立証していく必要があるので、世帯全員の住民票を提出して、同居家族がいることを主張していくことになります。
計算式) 日額(6100円)×通院日数
パート・アルバイトの場合
パート・アルバイトの場合にも会社員と同様、仕事を休んだ人有給休暇を使用した日が休業日数となります。
パート・アルバイトの場合でも、会社員と同様、勤務先に「休業損害証明書」に記載をしてもらうことにより、休業日数を証明していくことになります。
計算式) 日額×休業日数
自賠責保険への休業損害の請求方法(被害者請求)
加害者の自賠責保険に被害者自身で請求を行う場合には、被害者が資料収集などの準備をする必要があります。
この章では、被害者が自賠責保険に対して直接請求(被害者請求)する手順について解説します。
加害者の加入している自賠責保険会社を確認する
被害者が自賠責保険に対して直接請求するためには、加害者の加入している自賠責保険会社を特定する必要があります。
加害者が加入している自賠責保険会社は、交通事故証明書に記載されていますので、交通事故証明書を取得しましょう。
交通事故は、自動車安全運転センターで取得しますが、
- 窓口で申請
- 郵送で申請
- インターネットで申請
という3つの方法によって取得できます。
詳しくは、自動車安全運転センターのHPをご確認ください。
自賠責保険会社に対して被害者請求したい旨伝える
加害者が加入している自賠責保険会社が特定出来たら、インターネットで自賠責保険会社の電話番号を調べ、事故の日時等交通事故証明書に記載されている情報を伝え、被害者請求しようと思っている旨伝えましょう。
そうすると、申請に必要な資料のひな形であったり、申請書類のチェックリスト、申請先の住所等を郵送で送ってもらえます。
休業損害の請求に必要な資料を集める
自賠責保険会社からひな形をもらったら、休業損害の請求に必要な資料を集めましょう。
必要資料としては以下のようなものが一般的ですが、このほかに交通事故証明書や病院の診断書等も必要となります。
会社員の場合
- 休業損害証明書
- 事故前年度の源泉徴収票
個人事業主の場合
- 事故前年度の確定申告書
- (あれば)休業損害証明書
主婦(主夫)の場合
- 世帯全員の住民票
パート・アルバイトの場合
- 休業損害証明書
- (あれば)事故前年度の源泉徴収票
- (2がなければ)雇用契約書ないし労働条件通知書
自賠責保険会社に資料を郵送する
資料がそろえば、自賠責保険会社に資料を郵送しましょう。
郵送する際には、簡易書留やレターパックで送るのが安全です。
その後、自賠責保険会社に資料が届いたら自賠責保険会社の方で審査が行われ、休業損害の発生が認められれば休業損害が振り込まれます。
なお、資料を提出した後に追加資料の提出を求められたり、面接等を求められることもあります。
労災の場合にも自賠責保険に休業損害を請求できる?
交通事故が発生したのが業務中であったり、通勤退勤途中であれば、労災の対象にもなります。
労災の対象となる事故であれば、労災の申請を行うと、労災保険から休業補償を受け取ることができます。
休業補償は、事故前3か月間の平均給料を基礎として、「休業給付60%」と「休業特別支給金20%」が支払われます。
このように労災の対象になる事故の場合には、労災への休業補償の請求も、自賠責保険に対する休業損害の請求もできる形になりますが、結論からいうと二重取りはできないようになっています。
つまり、労災から先に休業補償を受けた場合には、それを自賠責基準から控除した金額が自賠責保険から支払われますし、自賠責保険に先に請求した場合には、労災の休業補償から自賠責基準の金額を控除したものが労災から支払われることになります。
なお、労災から支払われる「休業特別支給金20%」は控除の対象にならないので注意が必要です。
自賠責保険に休業損害を請求する際の3つの注意点
自賠責保険に休業損害を請求する際には、自賠責保険の限度額であったり、過失相殺であったり注意な必要なこともあります。
この章では、自賠責保険に休業損害を請求する際に注意すべき3つの点について解説します。
- 自賠責保険の支払限度額
- 自賠責保険の過失相殺
- 自賠責保険の時効
自賠責保険の支払限度額
通常の任意保険であれば、限度額の定めがないことが多いですが、自賠責保険においては支払限度額が決まっています。
自賠責保険の支払限度額は以下のような金額となっています。
そして、休業損害は「傷害」部分の賠償金から支払われることになるので、支払限度額は120万円となっており、ここには治療費や交通費、慰謝料なども含まれます。
したがって、治療費で120万円の支払限度額を使い切っている場合には休業損害を請求しても自賠責保険からは1円も支払われないことになります。
よって、支払限度額の関係で上記の計算式通りの休業損害を受け取れない場合もあります。
自賠責保険の過失相殺に注意
過失相殺とは、交通事故の発生について被害者にも責任がある場合に、その責任割合分損害賠償額が減額されることです。
自賠責保険の場合には、被害者に重大な過失がある場合に限り、支払われる賠償金に過失相殺がされることになっています。
具体的には以下のとおりです。
休業損害は「傷害」についての賠償金であるので、被害者の過失が7割未満であれば過失相殺されません。
自賠責保険の時効期間に注意
自賠責保険への賠償金の請求についても、時効があります。
この時効期間が経過してしまうと、原則として賠償金が支払われることはありません。
したがって、賠償金の請求には余裕をもって行動した方がいいです。
自賠責保険の時効期間は以下のとおりです。
自賠責保険からいつまで休業損害を支払ってもらえるのか
自賠責保険から休業損害が支払われる期間は、治療状況等を勘案して、治療終了日(症状固定日)までとなっています。
理由としては、症状固定によって事故の怪我の治療は終了すると考えられ、治療が終了した後の休業については事故の影響によるものか判断できないからです。
したがって、症状固定日以降も休業していたり、通院していたりしたとしても自賠責保険から休業損害が支払われることはありません。
なお、症状固定後の仕事への影響については、後遺障害の逸失利益によって賠償がされることになりますが、そのためには自賠責保険から後遺障害等級を認定してもらう必要があります。
休業損害を弁護士基準で支払ってもらう2つの方法
これまでは、休業損害の自賠責基準について解説しましたが、自賠責基準では休業損害について満額支払われないこともあります。
この章では、休業損害を弁護士基準満額支払ってもらう2つの方法について解説しています。
加害者の任意保険会社と交渉する
加害者が任意保険に加入している場合には、示談代行によって任意保険会社の担当者が被害者との示談交渉を担当します。
そして、任意保険会社から賠償額の提案が来ることになりますが、そのなかでの休業損害の計算方法は、自賠責基準であったり、任意保険基準であることが多いです。
もっとも、自賠責保険とは異なり、任意保険会社とは賠償金について交渉の余地がありますので、休業損害の金額が低い場合には、弁護士基準での休業損害を計算し、その額を支払ってもらうよう保険会社と交渉しましょう。
なお、自身での交渉が難しい場合には弁護士に交渉を依頼する方法もあります。
加害者に訴訟提起する
加害者が任意保険に加入していない場合には、加害者本人に弁護士基準での休業損害を請求する必要があります。
この場合には、まず自賠責保険に被害者請求を行い、弁護士基準と自賠責基準との差額を加害者本人に請求することになります。
もっとも、任意保険に加入していない加害者は資力に不安がありますし、交通事故の賠償について素人の加害者と交渉しても埒が明かないことが多いので、加害者相手に訴訟を提起することになります。
なお、自身で訴訟提起することが難しい場合には、弁護士に依頼することも検討した方がいいでしょう。
休業損害の請求は弁護士に相談しよう
いかがだったでしょうか。自賠責保険の休業損害の支払い基準がわかりましたでしょうか。
自賠責基準では「休業日数×6100円」という計算式によって休業損害が支払われます。
もっとも、休業損害も含めた傷害部分の支払限度額は120万円となっているので注意が必要です。
また、自賠責保険からは、休業損害の満額が支払われませんし、慰謝料も弁護士基準と比べると低額しか支払われません。
満足のいく交通事故の示談金を受け取るためにどのような方法をとればいいのかについて、一度は弁護士に相談するようにしましょう。
投稿者プロフィール
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法律事務所Lapin代表弁護士。東京弁護士会所属。
都内大手の法律事務所2か所で勤務し、法律事務所Lapin(ラパン)を開設。依頼者が相談しやすい弁護士であるよう心掛けており、もっぱら被害者の救済のために尽力している。
主な取り扱い分野は、交通事故、相続、離婚、養育費、不貞慰謝料、B型肝炎訴訟、労働問題、削除請求、刑事事件、著作権侵害事件。
特に交通事故については、累計500件以上の解決実績がある。
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