交通事故の休業損害として役員報酬も請求できる?請求できるケースを解説

会社員

会社役員をしているが、交通事故で怪我を負ってしまったために会社を休むことになった。保険会社からは、会社役員であれば役員報酬について休業損害を払えないと言われたが、本当なのだろうか・・・

会社役員の方が事故によって仕事を休む場合でも、休業損害を請求できるケースはあります。もっとも、会社役員は、通常の従業員とは契約形態も給料の決まり方も異なるため、休業損害を請求できないケースもあります。また、会社役員と言っても、個人事業主が法人成りしたような小さな会社から、上場している大企業まで様々です。

この記事では、

  • 会社役員と従業員との契約関係の違い
  • 会社役員でも休業損害を請求できる場合
  • 会社役員が休業損害を請求できない場合

について解説しています。

会社役員と通常の従業員は契約内容が異なる

通常の従業員は、会社と「雇用契約」関係にあるのに対し、会社役員は会社と「業務委託」関係にあります。

従業員の雇用契約の場合には、労働をしたことの対価として給料が支払われる関係で休業すると賃金が支払われないのに対し、会社役員の業務委託契約の場合には、基本的には報酬が決まっており、休業したからと言って直ちに減収するわけではありません

よって、従業員の場合には休業すると休業損害を請求できますが、会社役員の場合には休業したからと言って休業損害を請求できるとは限りません。

会社役員でも減収がある場合には休業損害を請求できる余地がある

会社役員であっても、休業したことによって減収がある場合には休業損害を請求できる余地があります。

もっとも、会社役員が受け取る役員報酬には、「労務対価部分」「利益配当部分」があると考えられており、この「労務対価部分」についてのみ休業損害を請求できることになっています。

労務対価部分とは

会議する

労務対価部分とは、役員が労働の対価として受け取っている報酬のことをいいます。この部分については、休業していると減収が生じると考えられているため、休業損害を請求できることになります。

役員報酬に労務対価部分が含まれているか、金額がどれくらいなのかは、

  • 会社の規模
  • 役員の業務の内容
  • 従業員の業務の内容、賃金

等を総合的に考慮して判断されます。

利益配当部分

これは、会社が得た利益を役員報酬という形で会社役員に配当している部分のことをいいます。これについては、役員が休業しようと関係なく役員に支払われるべきものですので、減収は生じないと判断され、休業損害として請求することはできません。

非常勤の取締役や名目上の取締役などは、役員報酬のほとんどが利益配当部分を占めるため、休業損害を請求することは難しいでしょう。

会社役員が休業しても会社は原則役員報酬を支払う必要あり

役員報酬は、基本的には取締役で年間の報酬額を決定し、それをもとに毎月役員に支給されるものになっています。したがって、会社は役員が休業したとしても、原則としてこれまで通りの役員報酬を役員に支払う必要があります。

ただし、役員が怪我などで休業する場合には、例外的に役員報酬を変更することも可能です。この場合には、役員報酬を減額した(支給しなかった)ことの証拠として取締役会議事録を作成して残しておくようにしましょう。

会社役員で減収無しの場合には休業損害を請求できない

会社役員が休業したとしても、会社がこれまで通りの役員報酬を支払ってくれる場合には、会社役員には損害は生じていないとして休業損害を請求することはできません。この結論については、会社役員の方にも不利益が生じていないので問題はないでしょう。

なお、会社役員には残業という概念もないため、残業代分を請求することもできません。

会社が企業損害を請求できる可能性あり

会社役員が休業しているのに会社が役員報酬を支払い続けている場合には、会社に損害が生じてしまうことがあります。

この場合には、会社が加害者に対して、企業損害を請求できる余地があります。

これは、

  • 会社の規模
  • 従業員の有無、人数
  • 会社に生じた損害の内容

などを考慮して判断されますが、実質的に1人会社であり、会社役員の休業が会社の損害に直結するような関係にあったような場合でなければ請求することは難しいでしょう。

まとめ

いかがだったでしょうか。会社役員の休業損害の内容が理解できましたでしょうか。

会社役員の場合には、通常の従業員とは異なり、休業しても役員報酬が支払われ続けているケースが多く、その場合には休業損害を請求することができません。

また、役員報酬が支払われていない場合であっても、休業損害を請求できるのは労務対価部分に限り、役員報酬のうち労務対価部分がどの程度であったのかを、被害者側が主張立証していく必要があります。

役員報酬と休業損害の関係について疑問があれば、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。

投稿者プロフィール

弁護士
弁護士 河井浩志
法律事務所Lapin代表弁護士。東京弁護士会所属。
都内大手の法律事務所2か所で勤務し、法律事務所Lapin(ラパン)を開設。依頼者が相談しやすい弁護士であるよう心掛けており、もっぱら被害者の救済のために尽力している。
主な取り扱い分野は、交通事故、相続、離婚、養育費、不貞慰謝料、B型肝炎訴訟、労働問題、削除請求、刑事事件、著作権侵害事件。
特に交通事故については、累計500件以上の解決実績がある。