交通事故の逸失利益とは?計算方法や最大限獲得する3つのポイント
交通事故で治療を続けたけれども後遺障害が残ったり、交通事故によって被害者が死亡してしまった場合には、逸失利益を請求することができます。
もっとも、逸失利益の計算方法や請求方法は決まっており、適切に請求できなかったり主張できなかったりすると、相場よりも低い逸失利益しか獲得できなくなってしまいます。
この記事では、逸失利益の計算方法、減収がない場合、逸失利益の請求が制限される4つの後遺障害、逸失利益を最大限獲得する3つのポイント、逸失利益を認定した裁判例等について解説しています。
この記事でわかること
- 逸失利益の計算方法
- 逸失利益の請求が制限される4つの後遺障害
- 逸失利益を最大限獲得する3つのポイント
- 逸失利益を認定した裁判例
目次
逸失利益とは
逸失利益には、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益の2種類があります。
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残り、その後遺障害のために仕事に影響が生じ、将来の収入が減少する可能性があることに対する賠償のことです。
後遺障害逸失利益は以下の計算式によって算定します。
計算式) 基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
死亡逸失利益とは、被害者が死亡し、本来なら就労して給料が得られるはずだったのにそれが得られなくなったことに対する賠償のことです。
死亡逸失利益は以下の計算式によって算定します。
計算式) 基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
逸失利益の計算方法
逸失利益の計算方法は下記の通りですが、逸失利益を計算するにあたっては、基礎収入や労働能力喪失率等、各項目をどのように算定するのかが重要となります。
この章では、逸失利益を算定する際の各項目について解説しています。
後遺障害逸失利益 | 基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数 |
死亡逸失利益 | 基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数 |
【職種別に解説】基礎収入
死亡逸失利益を計算するには、基礎収入をどのように算定するのかが重要となります。そして、基礎収入は職業によって算定方法が異なります。
この章では、職業別に基礎収入の算定方法について解説します。
- 会社員
- 個人事業主
- 主婦
- 会社役員
- 学生
- 無職
会社員
会社員の場合には、原則として事故前年度の収入額を基礎として算定します。事故前年度の源泉徴収票を参照することになります。
なお、手取り額ではなく、額面の金額です。
なお、現実の収入額が賃金センサスの平均賃金を下回る場合には、今後平均賃金が得られる蓋然性があれば、平均賃金を基礎収入としますが、認められる可能性は低いでしょう。
また、若年労働者(おおむね30歳未満)の場合には、就労して間もなく事故前年度の賃金が低い傾向にあり、学生については平均賃金を用いることとの均衡から、全年齢平均の賃金センサスの平均賃金を用いることが原則となっています。
準備する資料
- 事故前年度の源泉徴収票
個人事業主
基本的には事故前年度の確定申告書の申告所得額を基礎収入として算定します。逸失利益算定の際には、申告所得額に固定経費は加算しないこととなっています。
なお、現実の収入額が賃金センサスの平均賃金を下回る場合には、今度平均賃金が得られる蓋然性があれば、平均賃金を基礎収入としますが、認められる可能性は低いでしょう。
準備する資料
- 事故前年度の確定申告書
主婦
主婦の場合にも、他人のために家事労働を行っていたことに対して財産的価値が認められることから、逸失利益を請求できます。
そして、主婦は他人から給料をもらっていなかったことから、賃金センサスの女性平均賃金を基礎収入とします。
なお、兼業主婦の場合には、主夫の平均賃金と働いている方の給料を比べて、どちらか高い方が基礎収入となります。
準備する資料
- 世帯全員の住民票or家族構成表
- (兼業主婦なら)事故前年度の源泉徴収票
なお、主婦の逸失利益については、以下の記事でも解説しています。
会社役員
会社役員の役員報酬については、労務対価部分と利益配当部分に分けられ、労務対価部分についてのみを基礎収入として算定します。
労務対価部分かどうかを判断するにあたっては
- 会社の規模
- 被害者の地位
- 被害者の業務内容
- 役員報酬の金額
等を総合的に考慮して判断されます。
準備する資料
- 事故前年度の源泉徴収票
- (確定申告している方は)事故前年度の確定申告書
学生、幼児
学生や幼児の場合には、まだ就労していないので、賃金センサスの平均賃金を基礎収入として用います。
なお、大学への進学の蓋然性が高いようなケースでは、大学卒業者の平均賃金を用いることもありますが、その場合の就労開始年齢は22歳となります。
また、女子年少者の平均賃金については、女性労働者の平均賃金を用いることもありましたが現状では男女計の平均賃金を用いることが一般的となっています。もっとも、その場合には女性であっても生活費控除率が男性に近くなる傾向にあります。
準備する資料
- (大卒で請求したいなら)大学進学の蓋然性があったことを証明する資料(成績表、模試の結果等)
無職、高齢者、年金受給者
無職者や高齢者であっても、就労の意欲や蓋然性がある場合には、失業前の収入を基礎収入として逸失利益を請求できる場合があります。
また、基礎収入が賃金センサスの平均賃金を下回る場合には、賃金センサスの平均賃金を得られる蓋然性があれば平均賃金を基礎収入として用います。
年金受給者については、年金の額を逸失利益の基礎収入として算定されることも多いが、年金は生活に充てるものとして生活費控除率は通常よりも高額とされています。
なお、無職者や年金受給者の逸失利益については、以下の記事でも解説しています。
労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、後遺障害が将来の仕事に影響を与える割合のことです。
この影響が生じる分、収入が減少するとして後遺障害逸失利益を請求できます。
労働能力喪失率は、労働能力喪失率表を参考に
- 被害者の職業
- 年齢
- 性別
- 後遺障害の部位、程度
- 事故前後の稼働状況
を総合的に考慮して決定することになっています。
もっとも、基本的には労働能力喪失率表の労働能力喪失率を算定の根拠としていることが多いです。
労働能力喪失期間、就労可能年数
これは、後遺障害が労働能力に影響を与える期間や、死亡した被害者が就労し収入を得られたであろう期間のことです。
後遺障害が認定される場合には、生涯にわたって後遺障害が残るとされますが、就労している期間は決まっていますので、基本的には、67歳までの期間とされています。
死亡逸失利益の就労可能年数も、原則として67歳までの期間とされています。
学生、未就学児の場合
学生や幼児の場合には、症状固定時においても就労していないので、逸失利益を症状固定時からカウントすることができません。
よって、学生や幼児の場合には
基礎収入×労働能力喪失率×(67歳までのライプニッツ係数-就労開始年齢までのライプニッツ係数)
という計算式によって逸失利益を算定します。
なお、就労開始年齢は原則18歳ですが、基礎収入を大卒の平均賃金で計算する場合には、就労開始年齢は22歳となります。
計算例) 10歳の男子が事故によって後遺障害等級10級に認定された場合の逸失利益
545万9500円(令和2年賃金センサスの男性学歴計全年齢平均賃金)×27%(後遺障害等級10級の労働能力喪失率)×(27.1509(67歳まで(57年)のライプニッツ係数)-7.0197(18歳まで(8年)のライプニッツ係数))=2967万4697円
高齢者の場合
高齢者の場合に労働能力喪失期間を67歳までとすると、労働能力喪失期間が著しく短くなってしまいます。
なので、高齢者の場合には、67歳までの期間と、平均余命の2分の1を比較して、どちらか長い方の期間が労働能力喪失期間等とされています。
計算例)59歳の男性(年収600万円)が事故によって後遺障害等級8級に認定された場合の逸失利益
600万円×45%(後遺障害等級8級の労働能力喪失率)×9.9540(67歳までの年数8年より、平均余命の2分の1(12年)の方が長いため12年のライプニッツ係数)=2687万5800円
後遺障害逸失利益の期間については以下の記事でも解説しています。
生活費控除率
逸失利益は将来得られるはずだった賃金が得られないことに対する賠償のことですが、被害者の方が生きていれば、その賃金から生活費を支出していたはずなので、賃金全額を損害賠償として得ることはできません。
この生活費の支出の割合を定めたものが「生活費控除率」となります。
これは、性別や家族構成などから、ある程度参考となる割合が決められています。
なお、女性の幼児で基礎収入につき男女計の平均賃金を用いる場合には、男性と同様の生活費控除率が用いられることが多いです。
高齢者で年金受給者の場合には、年金が生活保障を目的としていることから、生活費控除率は上記よりも高く認定される傾向にあります。
逸失利益の請求が制限される4つの後遺障害
後遺障害逸失利益の計算方法はわかったかと思いますが、後遺障害の中には、後遺障害逸失利益の請求が制限されるケースもあります。
この章では、後遺障害逸失利益が特に問題となりやすい4つの後遺障害について解説しています。
- むち打ち症
- 外貌醜状
- 変形障害
- 臓器の障害
むちうち症
むちうちの場合に認定される可能性のある後遺障害等級は以下のような内容です。
この場合でも後遺障害は生涯にわたって残ると認定されていますが神経症状については時間経過によって順化すると考えられているため、労働能力喪失期間は制限されています。
具体的には、12級の場合には10年、14級の場合には5年程度に労働能力喪失期間が制限されています
外貌醜状
これは、顔や露出部に、傷跡ややけど痕が残ったことの後遺障害です。
外貌醜状については、見た目だけの後遺症であり、手足などの労働力には影響が生じないことから、労働能力喪失率が低く認定され、特に12級の場合には後遺障害逸失利益そのものが否定されることもあります。
もっとも、外貌醜状であっても、職種によっては仕事がしづらくなり、将来の仕事に影響が生じる場合もあります。
外貌醜状で適切に後遺障害逸失利益を獲得するためには、外貌醜状が被害者の職業にどの程度影響があるのかを具体的に主張立証していくことになります。
変形障害
これは、脊柱の圧迫骨折などによる脊柱の変形や、鎖骨骨折による鎖骨の変形等、骨折により骨が変形癒合したことに対する後遺障害です。
これについても、骨が変形しているものの具体的症状がなく、労働能力に影響がないとして、労働能力喪失率が低く認定されることがあります。
もっとも、骨が変形してしまっているために、手足が動かしづらくなっていたり、痛みや違和感があったりなどして、労働能力に影響が生じる場合もあります。
変形障害で適切な後遺障害逸失利益を獲得するためには、変形によって生じている神経症状等を後遺障害として認めてもらう必要があります。
臓器の傷害
これは、交通事故によって臓器が損傷し、臓器の機能に影響が生じていることに対する障害です。
臓器に障害が生じていても労働能力に影響が生じないことも多いので、労働能力喪失率が低く認定されることが多いです。
これについては、臓器の機能の低下によって日常生活や仕事にどのような影響が生じる可能性があるのかを主張立証していくことになります。
減収がない場合でも逸失利益を請求するために主張すべきこと
後遺障害逸失利益は、後遺障害が仕事に影響を与え、将来の収入が減少する可能性があるために認められるものになっています。
もっとも、後遺障害によって一切収入が減少しなければ、原則として後遺障害逸失利益を請求することはできません。
この点について、最高裁昭和56年12月22日判決は、後遺障害等級が認定されたものの減収がない被害者の逸失利益について、
「交通事故による後遺症のために身体的機能の一部を喪失した場合においても、後遺症の程度が比較的軽微であって、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないときは、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害は認められない。」
と判事しました。
もっとも、この最高裁判例は、減収がない場合に逸失利益の請求を一切否定しているのではなく、後遺障害の程度が軽微でなかったり、将来の収入の減少の可能性があったり、何らかの特段の事情がある場合には、逸失利益の請求の余地があるとの判断も行っています。
減収ない場合に逸失利益を請求するために主張すべきこと
まずは、後遺障害の内容や程度が軽微でないことを主張立証していくことになります。
一般的には後遺障害等級14級であれば軽微と判断される可能性が高いです。
次に最高裁は「特段の事情」がある場合には逸失利益を請求する余地があると判事しています。この特段の事情としては
- 収入の減少がないのが、本人や周りの特別の努力によるものか
- 将来の昇給や昇進に影響する可能性があるか
- 転職が制限されるか
- 業務に支障が生じているか
- 生活上の支障があるか
などを総合的に判断して、特段の事情があるかどうかを主張立証していくことになります。
逸失利益を最大限獲得する3つのポイント
後遺障害逸失利益を計算方法通りに獲得するためには、被害者の側でも後遺障害逸失利益について適切な主張立証を行う必要があります。
この章では、逸失利益を最大限獲得するための3つのポイントについて解説しています。
- 適切な後遺障害等級の獲得
- 労働能力喪失についての主張立証
- 弁護士に示談交渉を依頼
適切な後遺障害等級の獲得
後遺障害逸失利益は、労働能力喪失率が結果に大きな影響を与えます。
そして、労働能力喪失率は原則として後遺障害等級に応じて認められるものですので、認定されている後遺障害等級が重要となります。
したがって、実際の後遺障害に対して認定されている後遺障害等級が低い場合には、異議申し立てを行うなど、適切な後遺障害等級を獲得するようにしましょう。
労働能力喪失についての主張立証
後遺障害逸失利益の労働能力喪失率は基本的に後遺障害等級に応じて認められるとしても、後遺障害が具体的に仕事にどのような影響を与えているのか主張立証できなければ、後遺障害逸失利益を獲得することはできません。
したがって、後遺障害が労働能力にどのように影響を及ぼしているのかを、具体的に主張立証するようにしましょう。
主張すべきこと
- 被害者の職業
- 年齢
- 性別
- 後遺障害の部位、程度
- 事故前後の稼働状況
弁護士に示談交渉を依頼
後遺障害逸失利益について、適切に主張立証を行っても、保険会社が適切な金額で示談してくれるとは限りません。
また、後遺障害逸失利益の主張については、過去の裁判例等も検討したうえで主張立証していく必要があり、専門的な知識が要求されます。
したがって、後遺障害逸失利益の交渉については、弁護士に依頼した方がいいでしょう。
交通事故の相談なら法律事務所Lapinへ
交通事故の被害に遭ってしまった場合には、適切な対応を行わなければ、適切な慰謝料を受け取れない、示談金を低く見積もられてしまうなどの不利益を被ってしまいます。
また、後遺障害等級が認定されている場合には、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益など、請求項目も多くなります。
そして、保険会社との交渉では、慰謝料の計算や、その他の損害額の計算、過失割合の交渉など、専門的な知識が求められることになります。
したがって、交通事故の示談交渉は弁護士に依頼した方がいいでしょう。
法律事務所Lapinが選ばれる理由!
弁護士といっても、交通事故に精通している弁護士や、交通事故案件をあまり担当したことがない弁護士もいます。そして、交通事故の示談交渉では、交通事故の専門的知識や、保険会社との交渉経験等、弁護士においても知識の差によって結果が変わってしまいます。
法律事務所Lapinでは、交通事故の被害者側の依頼を500件以上担当した弁護士が交通事故の示談交渉を対応しますので、交通事故の専門的知識や経験は、他の弁護士に引けを取りません。
また、大手で大量に事件処理を行っている事務所では、事務員が担当として就き、弁護士となかなか話ができないケースもありますが、法律事務所Lapinでは弁護士が依頼者との連絡を行いますので、そのような心配はございません。
法律事務所Lapinでは弁護士費用特約も利用可能!
自身の保険や、ご家族の保険に弁護士費用特約が付帯している場合には、それを利用することによって、基本的に自己負担なく、弁護士に交通事故の示談交渉を依頼することができます(弁護士費用の300万円まで保険会社が負担するため)。また、弁護士費用特約はノンフリート等級なので、翌年の保険料にも影響はありません。
法律事務所によっては、報酬基準の違いで弁護士費用特約を利用できない場合もありますが、法律事務所Lapinでは基本的に弁護士費用特約を利用してご依頼いただくことが可能です。
まとめ
いかがだったでしょうか。
逸失利益の計算方法や主張立証する内容が理解できましたでしょうか。
後遺障害等級が認定されていたり、被害者が死亡した場合には、逸失利益のほかに慰謝料も請求することができます。
特に慰謝料については保険会社が採用している基準と弁護士が採用している基準との差が数百万円にもなってきますので、後遺障害等級が認定されていたり被害者が死亡した場合には、弁護士に示談交渉を依頼するようにしましょう。
投稿者プロフィール
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法律事務所Lapin代表弁護士。東京弁護士会所属。
都内大手の法律事務所2か所で勤務し、法律事務所Lapin(ラパン)を開設。依頼者が相談しやすい弁護士であるよう心掛けており、もっぱら被害者の救済のために尽力している。
主な取り扱い分野は、交通事故、相続、離婚、養育費、不貞慰謝料、B型肝炎訴訟、労働問題、削除請求、刑事事件、著作権侵害事件。
特に交通事故については、累計500件以上の解決実績がある。
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